『約束の地へ降り立ちし者』



 LCLの海の中、紅い瞳を持つ少年と少女がいる。

「シンジ君は行ってしまったね。これからどうするんだい?」

その常に笑みを絶やさない銀髪の少年は、側の少女に問いかけた。

「…全ての人々の魂を元のあるべき姿へと導く」

 空色の髪の少女は、先刻まで黒髪の少年を前にしていた時のやわらかな雰囲気とはうって変わった無表情で答えた。

「そうだね、それがシンジ君の望みだったね。でも僕が聞いてるのはそれじゃない。LCLと化した人々を元の姿へと導いた後、君自身がどうするのかと聞いているのさ」
「…私の使命は終わったわ……後は私の望み通り無へと帰るだけ…」
「嘘だね」
「…………」
「君は一体誰だい?」

 それまで無表情だった少女はその言葉にわずかにいぶかしげな表情を見せる。

「…私……私は綾波レイ…」
「そう、君はリリスじゃない、綾波レイだ」
「!」
「リリスとしての望みは無へと帰ることだったかもしれない。では、綾波レイの望みは何だい?」
「……私…………私は…………」
「……」
「……私は……」
「シンジ君」

 少女の体がビクッと震える。
 その心に黒髪の少年の言葉が、少年の笑顔が、そして先刻まで感じていた少年のぬくもりが去来する。

「シンジ君の元へ帰りたくないのかい?」
「……私は……………私は綾波レイであると同時にリリスでもある。その望みは同じよ」
「また嘘を言う」
「…嘘なんか言ってないわ」
「では、なぜ君は泣いているんだい?」
「…泣いている?……泣いているの私?」

 いつしか少女の紅い瞳は涙で滲んでいた。

「奇麗な涙だね。その涙は綾波レイのものかい?リリスのものかい?」
「……」
「シンジ君との別れを悲しみ、シンジ君と一緒になりたいと願う心が流す涙がリリスのものでもあると言うのかい?」
「……私は……私は使徒だもの……碇君のそばにはいられない」
「そうだね、使徒だったね」
「!?」
「まわりを見てごらん」

 少年はこれから彼らが導くべき何億もの魂の群を指し示す。

「これらの魂が、その心が自分自身をイメージした時に、誰もがヒトの姿に戻れる。そうだったね」
「……」
「ヒトの心が形成した形をヒトと呼ぶ。いわば、心のあり方がその存在をヒトとする」
「……」
「ならば、ヒトの心を持った君もまたヒトだろう?」
「……ヒト……私がヒト…」
「それに、君が帰るべき理由はもう一つある」
「…私が…帰るべき理由?」
「シンジ君の望みは何だった?」
「…全ての人々とともに現実の世界へ帰ること」
「そうだね。では、その理由は?」
「…みんなに会いたいと思ったから…」
「そう。では、シンジ君が会いたいと思ったヒトは誰だい?」
「…葛城三佐、弐号機パイロット、赤木博士、壱中のクラスメイト、NERVのみんな…」
「その中に君はいなかったのかい?」

 少女の肩が震える。

「わかっているんだろう?シンジ君の心にふれ、分かり合うことのできた僕たちだ。シンジ君の望む風景の中に君がいたことくらい」

 悲しみを写していた少女の顔に初めて喜びの色がうかぶ。

「……私……私は帰ってもいいの?」
「それを決めるのは僕じゃない。ヒトの心を持つ君がヒトの住まう世界へ帰る事に許可がいるはずがないだろう。帰るかどうかは君の自由意志さ」
「……私……私は……」

 少年は満面の笑みを浮かべて言う。

「シンジ君が待っているよ」

 少女は一瞬だけ目を見開いた後、天使のような微笑みを銀髪の少年へ向ける。

「ありがとう……私…行くわ」

 そう言って、少女は彼女が導くべき魂の群を引きつれて舞い上がった。
 愛する少年の待つ世界へと向かって。


「まったく世話がやけるね。シンジ君の望みとあらばサードインパクトだろうが、全てのリリンの新生だろうが辞さないくせに、自分の事となるとなんて臆病なんだろう」
「まあ、それがリリンの心ってやつかも知れないね」
「さあ、ところで僕はどうしよう?僕は渚カヲルか、それともタブリスか?」
「…………あわてる事はない。時間はある。シンジ君やレイたちのそばでゆっくりと考えるとしよう」

 そこまでつぶやいた後、少年はクスっと笑う。

「人の事は言えないね。こんなことを考えるなんてまるでリリンじゃないか」

「それにしても…」

 少年はこれから彼が導くべき魂の群を見回しながらつぶやく。

「シンジ君とレイが結ばれ、結果として全てのリリンが新生するなんて、まるでアダムとイヴだね」
「だけどそうかもしれない。これがリリンにとっての新たな創世紀となるのかも」

 少年もまた魂を引きつれて飛び立った。


 こうしてサードインパクト後、全ての人々は新生し、最後に紅い瞳の二人の人間が地上に降り立った。
 この日、人類は確かに新世紀を迎えた。




−−− 後書き −−−

 この拙いSSをお読みいただき、どうもありがとうございました。
 生まれてはじめてSSなるものを書きましたが、その大半がセリフのみのこの話、情景描写などというたいそうなものは書けないのがバレバレですね。
 そんな私が、この話を書いた理由は「THE END OF EVANGELION」でのレイの行方が気になったためです。一番気になるレイの帰還を軸に、シンジ・アスカ以外の人々の行方、タイトル(NEON GENESIS)の自分なりの解釈を加えてみました。
 カヲルについては無口なレイに対し、勝手にペラペラとなんでもしゃべってくれるのでだいぶ助けてもらいました。ただ、書きはじめはカヲルをどうするかなどまったく考えていなかったのに、勝手にしゃべったすえ、ちゃっかり一緒についてきてしまいましたが。
 あと、この話ではレイ=リリスとしていますが、私自身がそう確信しているわけではありません。とりあえずパンフレットに従ったということで。

 では、このようなものをホームページに載せてくださった@isaoさん、そして読んでくださった方々に感謝します。

 ご意見、ご感想がありましたらZX(GEC01277@niftyserve.or.jp)までいただけると幸いです。







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