「ATフィールド全開。」


N2地雷を掴んだ右手が徐々に使徒のATフィールドを浸食する。


(…あと、少し。)


しかし、地雷が使徒のコアに触れる瞬間、無常にもコアが膜のようなもので覆われた。


『ドカーン!!』


徐々に晴れていく爆発の煙。


(…ナゼ?)


少女の瞳に無傷の第拾四使徒の姿が映る。


(…倒せ…なかった…。)


伸びる使徒の腕。


(…ごめんなさい、碇君。…また…あなたを……。)


崩れ落ちる零号機。


(……ごめ…ん……な…………さ……………………。)

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    ・














「INNOCENT RED EYES」 200000HIT記念

Alone   〜Episode 19.5-20.5〜



                                                       Written by Safety













【2nd day】





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    ・

    ・

「…まだ、生きてる…。」


ベッドの中で目を覚ますレイ。

目の前に広がる真っ白な天井。


「うっ。」


身体を起こそうとすると全身に激痛がはしる。

神経接続を切らない状態で使徒の攻撃を受けたため、その後遺症の痛みが残っていた。

レイは動くのを諦め、ベッドに身体をしずめた。


「…いかり…くん…。」


少女の願い。

それは少年が無事な姿で自分の前に現れてくれること。


「…どうしているの?…碇君…。」







【5th day】







『プシュー!』


病室のドアが開く。


「いか……。」


まだ残る身体の痛みをこらえ、身体を起こすレイ。

しかし、現れたのはレイの期待していた人物ではなかった。


「ごめんね、レイ。シンちゃんじゃなくて。」


頭をポリポリかきながら部屋に入るミサト


「……いいえ。」


とはいうものの、落胆の色がありありのレイ。

が、ほんの一瞬ですぐに元の無表情に戻る。


「あのね…、」「…葛城三左、」


二人の声が重なる。

見つめ合う二人。

しばらくの沈黙の後、レイが口をひらいた。


「…なんでしょうか、葛城三左。」

「…レ、レイから先言っちゃって。」

「…………。」


少し逡巡し、言葉をさがすレイ。


「…使徒は…どうなりましたか?」

「使徒?…ああ、し、使徒ならシンちゃんが倒したわ。」

「…そう…ですか…。」


いったん口を閉ざすレイ。

ミサトも口をひらかず、病室を沈黙が支配する。


(辛いけど、やっぱ言わなきゃね…。)


「あのね、レイ。」

「…はい。」

「シンジくんのことなんだけど…。」


その瞬間レイの身体がこわばる。


「…碇君が…どうか…したんですか…?」

「え、えとね、この前の戦いでシンちゃん、その、ケガしたのよ。」

「!!」


青ざめるレイ。


「碇君、酷いんですか?」

「え、ええ、ちょっちね。当分会うことはできないわ。」

「…………。」

「レイ、そんな顔しないで、命に別状はないんだから。すぐ元気になると思うわ。
だからレイもしっかり身体を休めてね。」


そう言うと、上半身を起こしているレイの身体を優しく抱きベッドに寝かせる。

ベッドから不安げな眼差しをミサトに送るレイ。


「大丈夫よ、レイ。レイだって知ってるでしょ。ネルフの科学力さえあれば、どんな
ケガだって直しちゃうんだから。」


ウインクするミサト。

レイの顔にも僅かに笑みが浮かぶ。


「それじゃあね、レイ。何かあったら連絡してね。」


ミサトがきびすを返そうとする。


「…葛城三左。」


ミサトを呼び止めるレイ。


「なに、レイ。」

「…………碇君のこと……、……よろしく…お願いします…。」

「…もちろんよ。じゃね。」


手を振りながら病室を後にするミサト。





『ドサ。』


ドア向こうの長椅子に力無く腰掛けるミサト。


「………。」


おもむろに両手で顔を覆う。


「…あんな嘘…言わなきゃいけないなんて…。」


瞳から涙がこぼれ落ちる。


「……ゴメンね、ホントにゴメンね、…レイ。………シンジ君はね…………。」







【10th day】







「具合はどう?レイちゃん。」


花瓶に花を挿すマヤ。

マヤはレイの身のまわりの世話をするために病室に来ていた。


「…大分…いいです…。」


横になったまま返事をしたレイ。

頭に巻かれた包帯は外されている。


「その様子なら、もうそろそろ退院できそうね。」

「…はい。」


窓を開け、身を乗り出すマヤ。


「いい天気ね、レイちゃんも早く外に出たいでしょ?」

(…外?)

「こんな病室に一人ぼっちじゃ、つまらないしね。」

(…一人?)


レイの表情がくもる。


「どうしたの?」


黙ったままのレイを不審に思うマヤ。


「レイちゃん?」


マヤがレイの顔をのぞき込む。


「…会いたい。」

「えっ。」

「……碇君に…会わせてもらえませんか。」


マヤの瞳を見つめるレイ。


「…もう、私は歩けます。…碇君の病室を教えてくれませんか?」


ベッドから身を起こすレイ。


「ちょ、ちょっと待って、レイちゃん。…シンジ君はね……え〜と……その…、…そう、
今ケガの精密検査を受けてて、集中治療棟にいるのよ。だから、直ぐには会えないわ。」


とっさに機転をきかすマヤ。


「…そう…ですか。」

「そ、そうなのよ。もうちょっとの辛抱だから我慢してね。それじゃあ。」


そそくさと病室を後にするマヤ。





「ふう、危なかったわ。」


胸に手をやり安堵の溜息をもらすマヤ。


(…私には嘘を突き通せそうにありません。先輩、どうしたらいいんですか?)


両腕で自分の身体をきつく抱きしめる。


「ゴメンね、レイちゃん。」







【12th day】







レイ退院の日。

病室を後にするレイ。


(…碇君…やっぱり…来てくれなかった。)

(……どうして…?)

(…そんなに…ケガ…酷いの?)


レイの足は自然に集中治療棟に向かう。


「ここから先は部外者立入禁止です。」


入り口まで来たとき、看護婦に足止めされるレイ。


「私はEVAパイロット、部外者ではないわ。」

「でもダメです。命令ですから。」


看護婦は一枚の命令書を取り出す。


「赤木博士?」


そこにはリツコの署名で、集中治療棟への立ち入りを禁ずる旨が記されてあった。


「なぜ?」

「私にも分かりません。ただ命令があるまでは、誰も中には入れていけないと言わ
れているんです。」

「…そう。」


心にモヤモヤが残るレイ。


(…なぜ、そこまでして隠すの?)

(……………もしかして……碇君の身になにかが……。)







【15th day】







『コツ・コツ・コツ・コツ。』

(ふう、あと一息ね。)


レポートを見ながら廊下を歩くリツコ。


「赤木博士。」


後ろから声がする。

振り向くとそこにはレイの姿。


「あら、レイ。何か用?」

「一つお聞きしたいことが。」

「なに?」

「碇君のことです。」

「シンジ君?」


ピクリと動くリツコの眉。


「はい。」

「シンジ君なら集中治療棟にいるはずよ。」


振り返ると再び歩き出すリツコ。


「いいえ。」


足を止めるリツコ。


「碇君はそこにはいません。それどころか病室にも、ネルフの建物にも、この第三新
東京市のどこにもいません。」


レイの指摘に振り返るリツコ。


「…………レイ、あなたMAGIにアクセスしたわね。」


コクリと頷くレイ。


「この私に内緒で…………、まあいいわ。そこまで知っているなら隠してもしょうが
ないわね。あなたの言うとおり、シンジ君はこの世界中のどこにもいないわ。」

「………。」

「いえ、正確に言うと存在はしているわ。魂だけはね。」

「!!」


そう言うと、リツコはあの日何が起きたのか、一つ一つレイに教えて聞かせた。


「…………というわけなの。分かった。」


焦点の定まらない視線をリツコに向けるレイ。

明かされた事実はレイにはあまりにもショッキングだった。


「……元には…戻らないんですか?……もう…碇君には……会えないんですか?」


震える声でなんとか言葉を紡ぎ出すレイ


「あなたなら知っているはずよ、レイ。」


ハッとするレイ。

奥底に眠る記憶がよみがえる。


「…………………サルベージを………使うつもり…ですか……?」

「そう、成功する可能性は極めて低いけど、それしか方法はないわ。」

「……………。」

「話はそれだけね。」


複雑な表情のレイ。

レイが話さなくなったのを見て再び歩き出すリツコ。

視線をレポートに戻す。


「…ふう。」


溜息をつくリツコ。


(…レイには、全て終わった後で話したかったわ。)







【20th day】







『ガラガラガラ。』


夕暮れのとある神社。

目を閉じ、手を合わせるレイ。


(…お願いです。…どうか…碇君を元に戻して下さい。)


一心不乱に祈るレイ。


(…もう一度、もう一度だけでいいんです。…碇君に、会わせて下さい。)


脳裏をかすめる数々の思い出。


(………碇君…、…私を守るって、私を一人にしないって、約束したもの…。)


閉じた瞳から涙がこぼれ落ち、頬を伝う。


(…約束…したもの。…碇君、約束破るわけ…ない…もの…。)


ひざまずくレイ。


(……だから、お願い。戻ってきて碇君。…私を…一人にしないで…。)







【31st day】







「レイは帰りなさい。」

「…でも…。」

「大事なパイロットが徹夜なんかしてイイと思ってんの?ちゃんと家に連絡するから。
今日は家に帰りなさい。」

「…分かりました。」


今日はサルベージ計画実行の日。

都合一昼夜の計画予定が組まれていた。

実験に立ち会いたかったレイだったが、最近疲れがちだったこともあり、その願いは
受け入れられなかった。


「…あと、お願い…します。」


そう言い残し、ネルフを後にするレイ。





「先輩…。」

「ええ。」

「ほら、レイのためにもこの計画、成功させなくちゃね。」

ミサトが皆を勇気づける。


(…シンちゃん、必ず戻ってきなさいよ。あなたの帰りを待ってる女の子がいるん
だから。あんなイイ子泣かせたら、承知しないからね。)


「では、実験の準備に入ります。」

        ・

     ・


     ・



     ・




     ・







【33rd day】







“303号室 碇シンジ”の名札。

その病室の前に立つレイ。

目をつぶり、一度深呼吸をする。

そして一歩を踏み出す。


『プシュー。』


ゆっくりと目を開くレイ。


「スー、スー。」


そこには安らかな寝息をたてて眠る少年の姿。

少女が長い間追い求めていた少年の姿があった。


(…いかり…くん?)


瞳に一杯の涙が浮かぶレイ。

そのままベッドに近づき、静かに枕元の椅子に腰掛ける。

安らかな寝顔のシンジ。

その寝顔を見ているだけで、心が落ちつくレイ。


(いかり…くん。)


そっと指先でシンジの頬を撫でる。


(…あたたかい。)

(…ここに、いるの…ね………いかり……く………ん……………。)


枕元に倒れ込むレイ。

この二週間、レイは満足な睡眠をとっていなかった。

シンジの隣、そこがレイにとっての安息の場。

その寝顔はシンジと同じように安らかだった。

    ・

    ・


    ・



「シンジ、起きなさい。」

“だれ?”

「シンジ。」

“だからだれなの?”

「あなたの帰りをずっと待ってる人がいるのよ。」

“え?”

「ほら、早く行ってやりなさい。」

“…うん。”

「しっかりね。」

“……うん”



“でもあなたは誰?”

「それは内緒。」

“えっ。”

「でも、あなたをいつもそばで見守っているわ。」



    ・


    ・

    ・

「う、う〜ん、夢?なんか気になる夢だなあ。」


目を覚ますシンジ。


(…イイ匂い。だれ?)


何故か嗅いだことのある、懐かしい匂い。


(綾波?)


右を振り向くと、そこにはレイの可愛い寝顔があった。


「綾波、綾波。」


身体を起こし、レイの肩を優しく揺するシンジ。


『パチリ。』


レイの瞳が開く。その瞬間、


「碇君!!!」


シンジに抱きつくレイ。

そしてその胸にきつくシンジの顔を抱きしめる


「碇君!いかりくん!!イカリクン!!!」

「モガモガ、苦しいよ綾波。」


窒息感と幸福感を同時に味わうシンジ。

しかし、シンジの言葉も今のレイには聞こえない。

レイが落ちつきを取り戻すまでのしばらくの間、シンジはレイの胸の中で過ごした。





「…ごめんなさい。」


うなだれるレイ。


「そ、そんな。気にしないでよ、綾波。」

「でも…。」


申し訳なさそうにシンジを見つめるレイ。


「ホントに気にしないで。僕は全然怒ってやしないよ…。…むしろ…その逆、かな…?」

「…えっ。」


頭をかきながら赤くなるシンジ。


「…だ、だって、綾波がああいうふうに、してくれたのは、…その、僕のことをさ、
えっと、…た、大切に、想って…いる……から、なんだよね。」


「………………ぇぇ。」


頬を染めたレイが小さく呟いた。







「…そう、そんなことが…。」

「…ええ。」


シンジにこれまでの経緯を話すレイ。


「ゴメン。」

「ナゼ、碇君が謝るの?」

「だって、僕のせいで、綾波につらい思いをさせてしまった。」

「…んん、碇君のせいではないわ。私があの時使徒を倒しておけば…。」


二人は顔を見合わせる。


「ははは。」「ふふふ。」


同時に笑い出すレイとシンジ。


「でも、綾波を一人にしちゃったことには変わりないよ。」

「…………。」


寂しげな表情を浮かべるレイ。

シンジはそんなレイを愛しく、そして健気に感じた。


「なにか償いをさせてもらえないかな?」

「…償い?」

「うん、お詫びの印にさ。」

「…いいの?」

「うん。」

「………。」


クスッと微笑むレイ。


「…右手を貸して、…碇君。」

「…う、うん。」


怪訝に思いながらも、おずおずと右手を差し出すシンジ。








「あの…。」

「なに、碇君。」


神妙な面持ちのシンジ。


「…こんなので…いいの?」

「…ええ。」


瞳を閉じ、うっとりとするレイ。


「そ、そう。」


シンジの右手を両手で包み込み、自分の頬にあてるレイ。


「…いかりくん。」

「なに、綾波。」

「……………………………なんでも…ないの。」

「???」










(…私、一人じゃない。)










「……おかえりなさい、…碇君。」







                                  《完》








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