瞬間、心、重ねて 〜 1st & 3rd
起床。
私の部屋に時計はないが、いつもは夜明けと共に起きればいいので困らない。
学校に行くときは、早く行って教室で待っていればいいから。
テストなどで前夜遅く寝て、夜が明けても眠いときはもうしばらく寝ておけばいいから。
学校は、休めばいいから。
今日は、昼からシンクロテストなので、学校を休んで少しだけ余分に寝た。
2度目の目覚め。
まだ陽はそれほど高くない。
時間はあるけれど、本部に行ってテストまで待っていればいいので、もう起きることにする。
起きたらシャワーを浴びる。
部屋が暑くて、寝ている間に汗をかくから。
汗をかいたり、身体が汚れたりしたらシャワーを浴びるように赤木博士に言われたから。
ベッドから降りて、着ているものを脱ぐと、浴室に行く。
蛇口を捻って、頭から水を浴びる。
水が流れる感じ、とても気持ちいい。
水は好き。
立ったまましばらくシャワーを浴び続ける。
身体がきれいになっていく感じ。
それから石鹸を泡立てて身体にこすりつける。
髪も洗う。
汗と汚れを落としたら、またシャワーを浴びる。
泡がきれいに洗い流されるまで充分浴びる。
それから水を止める。
タオルで身体を拭いて、外に出る。
でも、この時、カーテンの外の様子を窺うことにした。
誰か来ているかも知れないから。
以前は、この部屋に人が来る可能性はないと思っていた。
赤木博士にこの部屋を宛われて以来、一年近く誰も来なかったから。
でも、この前、初めて人が来た。
碇君。
サードチルドレン、初号機パイロット、碇指令の子ども。
碇君は、この部屋に人が来る可能性があることを教えてくれた。
そして、シャワーを浴びている間に人が入ってくる可能性があることも。
あるいは、シャワーを浴びている間に私の大切なものが触られる可能性を。
また、入ってきた人に押し倒される可能性など。
あの時、碇君はあわてていた。
どうしてか知らないけれど、人が来ているときにシャワーを浴びると動揺を与えるらしい。
だから、誰か来ていたら出てはいけないと思ったので、人の気配がするかどうか確かめた。
誰もいないらしい。
カーテンを開けて浴室を出た。
碇君は、私が知らないいろいろな可能性を教えてくれる。
以前、うれしい時にも泣く可能性があることを教えてくれた。
他には、子どもが親のことを信じられない可能性があること。
そして、私が他人に興味を持つ可能性があること。
私はそれまで、自分の任務に関与する人以外に興味がなかった。
他人だから。
碇君は、碇指令の子ども。
任務は共通するけど、並列の関係。
だから、他人。
でも、私は碇君が他人なのに興味を持った。
命令でもないのに。
初めての感じ。
不思議。
理由はまだわからない。
私が碇君に興味を持った責任は碇君にあるのに、碇君が理由を教えてくれないから。
……どうしてこんなこと気にするの? わからない。
タオルで身体をきれいに拭く。
髪の水分を落とす。
まだ半乾きだけど、すぐに全部乾くから気にしない。
それから、下着を着けて、服を着た。
食事。
栄養をバランスよく摂るよう言われているので、栄養食品を食べる。
でも、朝はあまり食べられない。
一食分の半分だけ食べて、残りは冷蔵庫に保存しておく。
それから、水を飲んだ。
食事が終わったので、本部に行くことにする。
チェストの上に置いてある大事な眼鏡を鞄に入れて、部屋を出た。
シンクロテスト、終了。
テストは私一人だった。
このところ、碇君と弐号機パイロットはテストに来ない。
学校にも来ない。
でも、以前はずっと一人でやっていたので、別に困らない。
葛城一尉は、二人は特殊な訓練をしていると言っていたが、
私に関係ないのにどうして私に言うのかわからない。
……それなのに、私は碇君が来ているか来ていないかを無意識のうちに確認している。
どうして?
テストが終わった後は、制御室でテストの結果について評価を受ける。
私のシンクロ率もハーモニクスも、碇君や弐号機パイロットよりずっと悪いと言われた。
でも、私は自分ができること以上はできないと思うので、悪くても別に困らない。
使徒が来れば、任務遂行のために最善は尽くすけれども、できないことはできないから構わない。
評価を受けた後で、帰宅する指示を待っていたが、葛城一尉に同行を命令された。
今日テストに来ていない二人のところに連れて行くと言う。
私には関係ない訓練のはずなのに。
でも、私は行きたくないとは思わなかった。
……命令だけど、それ以外に理由がある気がする。
どうして?
葛城一尉の車で訓練場に連れて行かれた。
途中、碇君と弐号機パイロットに関する資料を渡されたが、車の揺れがひどくて読めなかった。
訓練場に着いた。
見たところ、マンションの一室で訓練は行われているらしい。
碇君と弐号機パイロットはここで何時間も寝食を共にしている。
……どうしてそんなこと気にするの? わからない。
「あら、いらっしゃい」
「これはどういうことか、説明して下さい」
この人たち、知ってる。クラスメート、みんな。
部屋の入り口には、碇君と弐号機パイロットがいる。
二人は、よく似たデザインの服を着ている。
色違い。
でも、私のプラグスーツは碇君のによく似ている。
上半身が白で、肩口のラインが色違い。
弐号機パイロットのは碇君のにあまり似ていない。
……どうしてこんなこと比較するの? わからない。
マンションの一室に入って、やっと渡された資料を読むことができた。
……一枚目は弐号機パイロットのデータだったけれど、先に二枚目の碇君の方を見てしまった。
どうして?
報告書の内容。
氏名:碇シンジ。
性別:男。
年齢:14歳。
血液型:A。
生年月日:2001年6月6日。
出生地:……
……訓練に関係のない項目。
でも、見てしまった。
どうして?
性格:温厚なるも、消極的、自閉症気味、分裂症気味。
趣味:音楽鑑賞、チェロ演奏。
特技:……
……これも関係ない。
でも、気にしてしまった。
どうして?
平均心拍数:……
平均呼吸数:……
体内時計平均周期:……
脳波基本周波数:……
遺伝子情報:……
この辺りは関係がある。
読んでみた。
ほぼ理解できたと思う。
……どうしてもっと他のこと知りたくなるの? わからない。
「そんならそうと、はよ言うてくれたら良かったのに」
「で、ユニゾンはうまくいってるんですか?」
「それは見てのとおりなのよ」
音がする。
訓練の音。
音に合わせて、身体を動かす訓練。
私見。
リズム感が重要。
他に、反射能力、運動基本性能、協調性。
碇君、リズム感良好。
弐号機パイロット、リズム感良好。
双方、問題なし。
反射能力、運動基本性能、共に弐号機パイロットの方が良好。
しかし、碇君より弐号機パイロットの方がリズムがわずかに早い。
反射能力と運動基本性能の差から考えて、早いほうが遅いほうに合わせる方が妥当と思われる。
弐号機パイロット、碇君に合わせる様子、皆無。
この人、協調性に欠ける。
資料にも……書いてある。
「当ったり前じゃない!
このシンジに合わせてレベル下げるなんて、うまく行く訳ないわ。
どだい無理な話なのよ」
「じゃあ、やめとく?」
「他に人、いないんでしょ?」
「レイ?」
「はい」
「やってみて」
「はい」
葛城一尉より、命令伝達。
訓練に参加。
弐号機パイロットと交替。
コードレスヘッドホン、装着。
まるで、インターフェイスヘッドセットのよう。
これで、碇君と同じ音が聞ける。
脳波も観測できればいいのに。
……どうしてそんなこと考えるの? わからない。
碇君の呼吸数を確認。
心拍数、未確認。
体内時計周期、脳波等、観測不能。
とりあえず、呼吸数を合わせる。
ユニゾン、開始準備完了。
……心拍数がうまく調整できない。どうして?
音、開始。
音。
高低差と、長さと、リズムのある、音。
音の流れ。
音楽。
音の何が楽しいの? わからない。
でも、碇君はよく音楽を聴いている。
碇君は、音の流れる感じが気持ちいいのかも知れない。
……どうしてそんなこと気にするの? わからない。
SO...DO...SO...so...
碇君、先程の観測より、リズム若干低下。
私が下方修正する。
MI...si...DO...SO...
過修正。
リズム、微少加速。
RE...LA...mi...MI...
再び、過修正。
リズム……修正、不要。
碇君が私に対して修正。
リズム確認。
協調成功。
ユニゾン完了。
……とても気持ちいい。
どうして?
si...MI...DO...LA...
「これは作戦変更して、レイと組んだ方がいいかもね」
「えっ……ええっ……」
碇君のリズム、聞こえる音楽より正確。
音楽の方が揺らいでいる。ディスクの回転むらか。
私は碇君に合わせて動くだけ。
碇君も私に合わせてくれる。
この訓練、とても簡単。
……ずっと続けていたい。どうして?
DO...FA...RE...SO...
「もういやっ! やってらんないわっ!」
弐号機パイロット、部屋を出て行った。
……どうして私、安心するの? わからない。
「アスカさんっ!」
「鬼の目ぇにも涙や」
訓練中断。
しかし、部分的に協調成功、ユニゾン完了。
問題なし。
任務遂行後に得られる充足感、及び開放感を確認。
……でも、もう一つ別の感情を確認。
これは何? わからない。
次回の作戦が私と碇君で行われる可能性、あり。
とりあえず、訓練の続行指示を待つ。
……今まで訓練の続行を希望したことはなかったのに、どうして? わからない。
「いーっ、かーっ、りーっ、くぅーんっ!」
「……」
「追いかけてっ!」
「えっ……」
「女の子泣かせたのよっ! 責任取りなさいよぉっ!」
この人、知ってる。
クラスメート。
どうして碇君に命令するの?
そう、この人、クラス委員長。
クラスの統括者。
だから碇君に命令できるのね。
でも、碇君が弐号機パイロットを泣かせた訳ではないのに。
不当な命令。
……どうして私が碇君を庇うの? わからない。
でも、碇君はクラスメートの命令どおり、部屋を出て弐号機パイロットを追いかけて行ってしまった。
……先程確認した説明不能な感情が消えていく。
どうして?
この後、夕刻まで待機するも、訓練再開、なし。
次回の作戦は碇君と弐号機パイロットが遂行することに決定。
訓練終了。
帰宅指示、あり。
……指示後、先程得た充足感、及び開放感、確認されず。
どうして?
初の分離・合体能力を有する第七の使徒、碇君と弐号機パイロットのユニゾンにより、殲滅。
任務完了。
これで、ユニゾンの訓練が今後行われることはない。
なのに、あの二人は未だに同じ部屋で寝食を共にしている……
…………
……でも、どうして私、そんなこと気にするの? わからない……
新世紀エヴァンゲリオンは(c)GAINAXの作品です。
Written by A.S.A.I. in the site
Artificial Soul: Ayanamic Illusions
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